マンション投資の鉄人

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第四の鉄人

私のマンション投資暦(2)

千葉県 Y.O(外資系投資顧問会社・投資運用部長)

「買うより借りよッ」の時代に「買って直して貸す」側にまわる

 海運王オナシスは中古の「ボロ船」を買い集め修繕・塗装を施し、船の使用価値を高めたと聞きます。英国のヴァージン・アトランティック航空を一代で築いたリチャード・ブランソン氏も安く買い入れた中古飛行機の内部を豪華に改装して、ロンドンへの出張族や観光リピーターの一部に根強いファンを獲得しています。
 このお二人が海運・空運という装置産業的側面の強い既成の業界に挑戦するのに用いたビジネス戦略には共通したパターンがあります。事業に必要な資産(船舶・航空機)は中古品を安く調達し、これに手を加えて改良するわけですが、その目的はあくまでも資産の「使用価値」を高める事であって「資産価値」そのものを高めて転売益を稼ごうというものではありません。余談ながら会員会社も航空会社も毎日手元に現金が入ってくるいわゆる「日銭商売」です。船・飛行機の買い付け交渉では手元のキャッシングがモノをいうことになります。安く買った資産をフル稼働させて月々の現金収入を増加させていくこうした手法が、成熟期に入った日本での我々の不動産投資にも大いに参考になるもです。
 日本の消費税の感覚もここにきて急速に変化し始めたようです。「所有」から「利用」へ、「ストック」から「フロー」へと質的に変わりつつある需要。不動産投資の分野でも、時間の経過が物件価格を押し上げてくれるのを待つ消費的な姿勢から、使用価値の高い物件を選別買いして必要とあらばさらに手を加えて使用価値を引き上げる努力を惜しまない積極姿勢への転換がはやくできた投資家には成功が約束されていると言えましょう。
 これからの不動産投資ではいたずらに値上がり益を狙うのではなく、利回りを重視する必要がある事は前回述べた通りです。これはただ利回りが高い物件に投資するという意味ではなく、利回りを維持し、さらに向上させるフォローアップの投資もしていこうということです。地価も建築資材費も人件費も年々上がり続けた従来の状況下では当然のことのように物件価格も家賃収入も上昇を続け、利回り向上の工夫もとくに重要ではなかったのでしょう。市場が弱気に傾いている時でも買いに出る度胸があり、大きな資金を借り入れる能力のある投資家が、より大きな利益をあげてきたのです。
 ところがこれからは、ちょっと厳しい物件選択やちょっと工夫されたグレードアップ投資が、おおきな投資収益の差となってあらわれる時代ではないかと思います。ユーザー(入居者)は「賃貸だから仕方ない」と多少の不満には目をつぶる事がなくなるかわりに、生活の快適性のためには余分なm」と呼ばれたような人達が住んでいた高級物件は明らかに景気低迷に弱く、普通の人々が多少所得が減っても購入したり無理なく家賃を支払えるような物件の方がはるかに値下がり余地が小さいのは明らかです。つまり一般向けのマンションやアパートがもっとも賃借需要・価格共に安定しているといえます。
 新築と中古マンションを一坪あたりの売出し価格で比べてみると、新築の方が中古の二倍近くの値がついている事がわかります。しかしマンションを賃借する人にとって、同じ立地と広さなのに新築に中古の倍の家賃を支払う「使用価値」があるものでしょうか?まずそんな事はないでしょう。このため新築や築年数の少ないマンションの利回りは相対的に低くなるのです。古いマンションの方が、これからの不動投資で最も重要な利回りが明らかに高いのです。
 ファミリータイプと小型の居住用物件の比較ではどちらが有利かは一概にはいえませんが、3LDK等のファミリー用物件については現在デベロッパーが新築を大量に供給している点や、一度空室になると次の入居者が決まるまでに時間がかかる点がデメリットになると見られます。単身者向けの物件の方がテナントさんの出入りは激しいようですが、いったん空室になっても次の入居者が見つけ易いようです。

景気回復が遅れても物件の今の利回り以上の収益を狙える投資物件選別法

 ビジネスの常道のひとつに、何がしかの理由で自分にとっての競争相手が少ない分野を選ぶという方法があります。ファミリータイプのマンションに「出物」があったとしても投資用にこれを購入しようとする我々は、そこに住むためにそのマンションを買おうとする「実需筋」の需要と競争しなくてはなりません。ところが学生や専門学校生の場合、自分が住むワンルーム・マンションやアパートの部屋を買おうとする人はあまりいません。居住年数が限られており、その後の就職地も確定していない場合が多く、投資の元手やローンの借入れ能力もきわめて限定されるため、ワンルームの買手として入居者の学生さんが我々のライバルとして登場するケースはほとんどありません。私も学生時代には自分の住む場所を買おうなどという考えは、頭をかすめたこともありませんでした。学生の他にも単身サラリーマンや小さな会社・団体にも「買うより借りる」動機は色々と働くものです。つまり小型の居住用・オフィス用不動産を我々が物色する際には、買手としての競争相手が少ないと言えます。借り手が多い割に買い手が少ないという事は、家賃が高い割には物件の価格が安い事を意味しています。この種の物件はこうして投資利回りが高くなるわけです。
 統計的にも札幌は人の出入りの激しいです。一時的にしかこの街に滞在しない人達はマンションを「買うより借りる」傾向が強く、これが投資用不動産の利回りを他の大都市よりも高めていると私は見ています。
 私はまた、今回の全国的な不動産不況はあと数年は続くと考えています。その場合は、1930年代のアメリカの大不況の経験を振り返ってみるのも有用ではないかと思います。当時のアメリカのデフレ経済下、ほとんと全てのモノや資産の価格は下落しました。まさに「キャッシュ イズ キング」、お金を持っている人が勝ち残ったのです。もちろん、その後巨富を築いた人々のほとんどは、世間が明日への希望を失いつつあった時期に、お金を他の資産やモノかえる勇気を持った人でした。この意味での我々の不動産投資の絶好の買い場は、今後一年か二年の間になると予想しています。しかし、さまざまな構造問題の根は深く、不動産市況の立ち直りのペースは鋭く、さらに政策対応を誤れば市況の回復時期はもっと先送りされてしまう危険性もはらんでいます。
 このような好ましくないリスク・シナリオが現実のものとなってしまった場合でも、将来の本格的な市況回復を待たず儲けを狙える物件があるのでようか?少なくとも1930年代のアメリカにはこうした物件が数多くあったようです。それは低所得者向けの都心のアパートでした。不況で所得が低下した人々は郊外の高級住宅を売却し、市内にある安い家賃のアパートに移り住みました。ある記述によれば、この結果都心部の低家賃アパートの賃料は1930年代の前半に平均で4割上昇したとされています。これからの日本でも不況が長引き、家賃の下落から投資物件の利回りが低下する事態を防ぐためには、立地が良く、家賃や共益費が入居者個人の負担能力をかなり下回っている物件を選ぶべきでしょう。好況は高級物件を人気化させ、不況はむしろ低家賃の物件を人気化させるとみています。

個人投資家として守るべきこれからの不動産投資の鉄則

 ここまでお読みいただければおわかりでしょうが、不動産価格の継続的な値上がりが期待できなくなった日本では今後、我々個人が不動産投資をする場合、次の鉄則を守る必要があると確信しています。それは、「投資に関連する月々の収入が月々の支出を上回る」という単純なものです。このルールに反する不動産投資は避けた方が賢明でしょう。
 節税メリットも考え合わせれば投資採算がとれるというような物件にも手を出さない方が良いと思います。我々の所得も税制も、いつどのように変化するかわかりません。ただ借入れ資金のローン金利にはそれほど神経質にならなくて良いでしょう。上で述べた投資の鉄則させ満たしていれば、ローン金利が住宅金融公庫の金利等と比べて相当割高であっても、とくに気にする必要はありません。ローンの金利を大きく上回る投資利回りの物件を懸命に探して更に改良投資すればよいのです。バブル期に、上場企業がほとんど無利子で調達した資金の多くは、リゾート開発等きわめて採算の悪い事業しか生み出していません。安い金利の資金はどうしても安易な投資に流れがちですし、高い金利の資金は厳選された高利回りの投資対象を見つけてくるものです。我々個人投資家としても、低金利のローンを獲得することよりも高利回りの投資物件を確保することに注力すべきでしょう。
 物件の投資利回り(年間の手取り家賃収入を買い付け価格で割った数値をパーセントで表したもの)は、我々不動産投資の素人にとって実に重要な指標です。物件の価格が魅力的なものかどうか、立地ごとのマンション市況の推移を継続的に追っていない我々としは、利回りで判断する事になります。その物件の家賃が近所の相場とかけ離れた水準に設定されていれば、無論利回りのすうちも歪曲されたものになってしまします。たが、近隣の家賃相場と比べて家賃が適正なレベルにあるかどうかは、住宅情報誌一冊あれば、またはその地域の不動産屋さんを一軒のぞけば、かなり正確に判断できます。物件の諸条件を加味したうえで家賃が適正と判断できれば、あとは利回りが充分に高いかチェックすれば良いわけです。
 不動産の節税メリットについえは、前にも述べたように税制が変更される事もたびたびあるので詳しくはふれません。ただ現行の税制下で一点だけ挙げるとすれば、購入価格に占める建物価格の比率の高い物件を選ぶという事でしょう。この比率は税金を申告するときの原価償却額(定率法では当初は買い付け額の1割以上に達して、家賃収入全額を無税にしてしますケースもあります)と支払い金利控除額に大きな影響を与える数字ですので、できれば購入前に不動産屋さんにどの程度か確認しておくのが良いでしょう。8割以上あれば理想的といえます。
 本論からははずれますが、所有不動産が何軒かになってくれば税金の申告はプロの税理士に相談した方が色々なメリットが得られると思います。税理士の先生への支払い報酬も翌年の申告時には費用として計上できるのです。

まずは「親子丼」を卒業することから...

 昨今の景気低迷でかなり是正されたとはいえ、いまだに一部の大企業では「ドンブリ勘定」が横行しています。しかし、大企業ほどの財務力のない我々の家計からの不動産投資には、ドンブリ勘定は禁物です。
 家計と投資会計が混在していて、儲かったのか損をしたのかはっきりしない状態は絶対に避けなければなりません。将来「親」(家計)が「子」(個人の投資用不動産)に養ってもらうつもりなら、「親」はひとりひとりの「子」に対して一度はまとまった額の「独立資金」を与えるべきですが、以降は一切の「ミルク補給」を絶つべきでしょう。そうしてはじめて個々の投資用物件の収益力が明らかになります。全ての物件について独立採算制が成立することが最低必要条件です。
 銀行口座も家計用に使っているものとは別の口座を投資用として開設すると便利です。私は物件毎に個別の通帳を持っていて、その物件にかかわる全ての入・出金は物件の専用通帳に記入するようにしています。また、物件別に資料や関係書類用のクリアホルダー・ファイルも作っています。厳密な帳簿をつける時間的な余裕がない場合も工夫次第で継続的に投資採算をチェックして家計・投資混合の「親子丼状態」から脱出する事は可能なのです。そして効果的な現状把握があらゆる事業活動の出発点となる事は、あらためて強調するまでもありません。